林 克彦
教授/PI
大阪大学 医学系研究科
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PRIMeの研究者
PRIMeでは、多様な分野、国籍、背景を持つ研究者がアンダーワンルーフで混ざり合い、学際的・統合的な研究ができる研究環境を醸成していきます。
不妊症を解明する生殖腺オルガノイドシステムの構築
生殖腺は次世代をつくる配偶子の産生とともに性ホルモンを分泌して個体の恒常性維持に重要な器官であり、その機能不全は不妊症やさまざまな恒常性疾患の原因となる。本研究では、我々がもつマウスの知見をもとにヒト生殖腺オルガノイドを構築し、生殖線の機能を維持・制御する体内・体外因子を同定する。同時にこれらに介入することにより疾患原因の究明、疾患の予測、治療法の開発を目指す。
研究概要
生殖腺は生殖細胞の発生と性ホルモンの分泌を統御する重要な器官であり、その機能の低下は不妊症やホルモン分泌異常に起因する様々な疾病の原因となる。生殖腺は疾患や加齢によりその機能が大きく損なわれる。とりわけ卵巣の機能は年齢と密接に関係しており、加齢による不妊症や遺伝病の発症リスクの上昇は深刻な問題である。卵巣では原始卵胞という最も未熟な卵胞が出生時に蓄えられ、これらが一生を通じて卵子やホルモンをつくる供給源となる。卵巣中のほとんどの原始卵胞は発生休止状態にある一方で、一部の原始卵胞が活性化して成長卵胞となり周期的な排卵とホルモン制御を担う。すなわち卵巣の機能の維持には原始卵胞の発生休止と活性化のバランスが極めて重要であるが、そのメカニズムやバランスを撹乱するリスク因子はほとんど明らかになっていない。早期の原始卵胞の枯渇は早期閉経(100人に1人)、異常な活性化やホルモン分泌の異常は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS, 20-30人に1人)などの頻度の高い原因となりうることから、このバランスの理解は急務である。
本研究ではヒトiPS細胞を用いた卵巣組織の構築により、卵巣における原始卵胞の発生休止と活性化を制御する体内・体外因子の同定を目指す。これまでにヒトiPS細胞を用いて生殖腺を構築した報告はないが、我々はこれまでにマウス胚性幹細胞(ES細胞)/iPS細胞から世界で初めて始原生殖細胞1,2 、卵子3,4 、卵巣体組織5 を作り出すことに成功している。これらの培養系を応用してヒト生殖腺オルガノイドを構築するとともに、原始卵胞の発生休止と活性化を制御する体内・体外因子を探索する。具体的には患者由来のiPS細胞を用いて構築した生殖線オルガノイドに対して臨床情報に基づいた様々な摂動を与える。それらに対する反応を定量化するとともに、各刺激との相関やゲノム情報との相関を検討する。また取得データをもとに卵巣の機能や寿命を予測するアルゴリズムの構築を目指す。これらを統合することにより、卵巣における疾患原因の究明、疾患の予測、治療法の開発を可能にするプラットフォームの形成を目指す。
参考文献